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大学時代編⑧ 八百屋でアルバイト

2022.03.17

大学時代編

夏の有機農業の旅から帰ってきて、より農業や野菜に対する意識が強くなった。将来は自給自足の生活を・・とは思っていたものの、まずはそれに近いライフスタイルや仕事を目指したいと思った。そしてまず自分にできること、ということでより野菜料理を熱心に作るようになった。もちろんその動機は綺麗事だけではなく、年上の彼女に認められたいという動機も大きかった(笑)。菜食料理の本を買いあさり、熱心に料理の勉強をした。料理を作って彼女の仕事の帰りを待つさながら主夫のようなことをしていた。そして野菜を買いに行くようになったのが当時下鴨にあった「キッチンガーデン」という八百屋だった。

キッチンガーデンは、京都の北部、かやぶきの里として有名な美山町在住の店主が、近隣の野菜を集めて街へ運び売っている八百屋だった。プロの農家が作った野菜ではなく、おじいさん、おばあさんが自給用の延長に作ったような、田舎の温かみを感じるような素朴な野菜を売っていた。当然旬の野菜しか置いておらず、夏に大根、冬にトマトはなかった。スーパーの野菜とは気色の違う野菜として、自然志向の方や料理人の方から一定の支持を集めていた。そんな土臭いスタイル、また「野菜は愛やで」と誰彼構わず話しまくるという店主の独特の人柄に惹かれ通うようになった。

大学生の男子が一人で買い物に来るのは珍しかったようで、ある日店主に声をかけられアルバイトを始めることになった。自分の好きな店で働くことができて嬉しかった。仕事は店番で、買い物に来られるお客さんの接客をした。いろいろな野菜に直に触れることができ、後に八百屋をやるうえで最低限の知識も得ることができた。

店主は「うちの野菜はじいさんばあさんが、孫を喜ばせるために作っている野菜なんや。だから愛がこもってるから美味しいんや。」とよく言っていた。今思えばキッチンガーデンの野菜はあまり洗練されておらず、あたりハズレも多かった。しかし店主は「それも含めて野菜なんや」といい検品や品質管理もあまり徹底していなかった。今でも「野菜は愛だ」というこの店主の言葉には影響を受けているし、栽培方法よりもそれが一番大事だと考えている。ただ検品や品質管理はこの店とは全く違い、ある意味反面教師にしてワンドロップではかなりこだわっているつもりだ。それでも野菜の品質のブレをどこまで許容するのか・・というのはいつも迷うところではある。春になればどうしたって花が咲く、大根にはスが入りはじめる。それを全部ダメだと言ってしまっていいのか。お客さんにももっと畑の移り変わりや野菜の性質をちゃんと説明して、理解してもらう努力も必要ではないのか、という葛藤はある。

八百屋でのアルバイトをはじめたのは20歳の冬の頃だった。それまでは飲食店でのアルバイトが多かったが、思えばこの時から20年来、ずっと八百屋の仕事しかしていない。にもかかわらず、この接客の下手くそ加減はなぜなのか(笑)。

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