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奇跡のひとしずく

update:
2022.2.14
category:
開業準備編

今から16年前の2006年2月8日。この年の冬は大雪ばかりでとても寒かった。

23歳だった僕はこの日無職になった。そして同じこの日から、まさに天から落ちてきた奇跡のような「ひとしずく」によって、僕の八百屋人生は始まった。

大学を卒業してからまだ1年もたっていない冬だった。僕は就職活動は一切せず、学生時代からアルバイトしていた八百屋での仕事を続けていた。

この日の約2週間前、勤務先の店主が心身共に不調をきたし、店に出勤してこなくなった。僕は知り合いの八百屋に助けてもらい、なけなしのポケットマネーをつぎ込んで商品を仕入れなんとか2週間頑張ったが、先も見えずもう限界だった。借金取りからの鳴りやまない電話。最終的には電話線を抜いた。ついには店に取り立てが殴り込んできたこともあった。どこにいる!と詰められとても怖かった。

自分の仕事を失いたくないという思いももちろんあった。しかしもうこれ以上続けることはできないと決め、2月8日、在庫の商品を売りつくして店を閉めた。その間、店主とは音信不通のまま。やりきれない虚しさ、この先どうなるんだろうという不安、緊張状態から解放された少しの安堵感、そして疲労感。それらが入り混じった気分だった。

そしてその夜、一緒に働いていたアルバイト仲間と一緒に、いつもよくしてもらっていた近くの小さな料理屋さんで打ち上げをしていた。

「これからどうするー?」
「なんも決まってないっすねー。沖縄でもいこっかな~」

こんな会話をしていた、そんな時だった。とあるご夫妻が来店された。そのご夫妻は、僕の勤務先のお客さんでもあった。そして、ご夫妻にこの料理屋を紹介したのは僕だった。買い物に来られた時に、このお店美味しいですよとショップカードを渡したのだった。そしてはじめてご来店されたのがこの日だった。僕は軽く会釈をした。ご夫妻は奥のテーブルへ。

しばらくして、僕たちはそのテーブルに呼ばれた。
「あの店、無くなっちゃうんだって?」
「はい、そうなんです」
「君は、これからどうするの?」
「いやぁ、なんも決まってないっす。沖縄でも行こうかな~と。沖縄好きなんで」
「君は、なんであの店で働いていたの?」
「環境問題や、オーガニックに興味があって、、そういう生き方とか働き方ができたらいいなって」
「なるほど。君は、そういったオーガニックや農業にかかわる仕事がしたいのか?」
「はい。いつかはそうしたいと思ってます」
「じゃあ、君に一ついい提案をしよう。僕の家のガレージが空いている。そこを使って八百屋をやってみたらどうだ?」
「ええええぇーーーーーー!!!!!!」

こんな素敵なご夫妻、普通いる?ありえないよね?っていう信じられないような話の、漫画のような展開。でもこれが本当にワンドロップの始まりだった。

もし僕がご夫妻にショップカードを渡していなかったら。
もしご夫妻が来店するのがこの日ではなかったら。
僕は今頃沖縄にいたのかもしれない(笑)。人生は何が起こるかわからない。
無職になったひどい日に、希望の蜘蛛の糸よのうな一滴が天から落ちてきた。
本当にこのご夫妻なくしてはワンドロップのスタートはなかった。感謝してもしきれない。

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